ここ数ヶ月ぐらいキーボードを作っていた。そのためにいろいろ yak-shaving としかいいようがないことも多々していた。

いろいろ書くことが多いので、細かい設計などについては別途エントリを分ける。

  • コンセンプトとキーレイアウトおよび技術仕様の決定
  • 回路設計とアートワーク・実際の製作
  • ファームウェアの実装

あたりをそれぞれ別途詳細なエントリを書く。だいたいの人は細かいことはどうでもいいと思うので、概要のみこのエントリにまとめる。

コンセプトや特長

UNIX ベースのキーレイアウト (というかHHKBをベース) とし、違和感なしに分割キーボードとする。

キー配列

  • UNIX キーボードを2分割した形を基本にする。つまり HHKB とほぼ同じで、Ctrl キーはAの左、ESC は 1 の左など。
  • 矢印キーはどうしても欲しい (HHKB への大きな不満のひとつ)
  • F1〜F12キーもできれば欲しい (HHKBへの小さな不満のひとつ)
  • 中央のキーを1列分オーバーラップさせる (ゆるふわタッチタイピングに必要)

特長

  • Bluetooth 4.0 (Bluetooth LE) HID over GATT 接続。Windows と OS X で接続可能
  • Bluetooth 経由によるファームウェアアップデート
  • mbed オンラインコンパイラによるファームウェア開発環境
  • 全てオープンソース (MIT)
  • 1900mAh の NiMH 充電池で約6ヶ月のバッテリーライフ
    • キー入力時 3.3mA、非アクティブ時10uA〜100uA(OSの挙動による)

FOTA/DFU (Firmware On The Air / Device Firmware Update) かつオンラインコンパイラによりキーカスタマイズのために環境構築が不必要。あるいは MK20 による書きこみなので、3ピンの配線でUSBからマスストレージクラス経由で書きこみ可能。

技術的な仕様

UNIX配列のBluetoothキーボードというのが希少で前々から欲しいと思っていたので、接続インターフェイスは Bluetooth としてみた。

インターフェイスとして RedBear BLE Nano というのを使うことにした。国内技適にも通っており結構安い。mbed が開発環境に使える。名前の通り BLE (Bluetooth 4.0) 接続になる。ただ、なんというか、この選択(無線化)は割と悪夢の始まりだった。

回路設計


BLE Nano はピン数が少ないため、I2C GPIO 拡張の MCP23017 を2つ使っている。消費電力削減のため GPIO の割込みを活用している。キーの部分は単にキーマトリクスなので特におもしろいところはない。

ステータスLEDを1つだけつけている。これはペアリングステータスを示すため。キーボードにLEDあっても見ることないし消費電力の無駄なのでほとんど消灯させておく。

基板設計

KiCAD のプロジェクトは github に置いてあります。https://github.com/cho45/Keble

PCB Milling (CNCフライスによる基板切削) でやることを前提としたので、片面基板+最低限のジャンパで構成した。

複雑ではないが配線数は多いので、片面という制約をつけると結構厳しい。がオートルータでなんとかなった。製作しやすくするため、デザインルールで最小幅を0.3mmとした。

製作

とりあえず左を作ってファームウェアと共に実装を検証し、それから右側を作った。そのため、右に比べると左側のクオリティが明らかに低い。

設計がちゃんとできている前提で、無心ではんだ付けをするだけ。振動とたわみの負荷がSMDにかかるのがなんとなく嫌で全てリード部品としたため、特に難しいところはない。

基板以外に、バックプレート(2mm)とフロントプレート(1mm)をさらにプラ版から切り出している。なので、3層構造になっている。側面はない。

ファームウェアの実装

mbed レポジトリ

mercurial:

hg clone https://developer.mbed.org/users/cho45/code/keyboard/

前述の通りだけど、今回は mbed のオンラインコンパイラで全て実装した。BLE Nano + mbed でセキュアペアリングして HID デバイスとして動かす例なんてのは例がさっぱりなくて大変苦労した。

HID キーボードとして簡単に動かすぐらいまでは、既にやってる人がいるので難しくない。しかし、実用キーボードとして安定して動かすようにするまでがかなり辛かった。

70%ぐらいの完成度まではすぐできるけど、そこから90%ぐらいまで完成度を上げるには大変な労力がいる。ハマったポイントが蓄積されていて、使えるぐらいに安定して動くコードがある状態にできたので、まぁ良かった…… ハードウェアよりもファームウェアの実装の知見のほうが遥かに価値があると思う……

基本的に mbed 環境でがんばるってのが筋が悪いのだけど、なんとなくオンラインコンパイラにこだわって意固地になって苦労している感じ。

現状の実装クオリティ

主観的には90%といったところと思ってる。温度感としては「ブログ書くぐらいなら全く問題がなく、仕事で使うのにもまぁまぁ使える」ぐらい。

仕事で1日使ったところ、数回再接続(約5〜10秒ぐらい)が必要になったのと、1度完全に刺さった(WDTで復帰せず、リセットで復帰)。0dBmで送信しているので、普通の距離なら物理要因で接続が切れることはないと思うので、他の再接続もファームウェアのバグだと思うが原因不明。

自分の主観的には割と稀ぐらいまできて普通に使える、バリバリ集中してコード書きまくる人だとイライラするかもしれない。

キーマップが HHKB と同じ (Fnキーによる矢印キーも実装してある。レイヤーってやつ)なので、基本的にどっちも全く違和感なく使える。

部品とコスト

  • BLE Nano Kit: 3300円 (Red Bear Store)
  • Gateron Brown キー 108 セット: 3300円 (ebay) 余ります
  • キーキャップ 104 セット: 5700円 (ebay) 余ります (無刻印・メタキー用)
  • キーキャップ 104 セット: 3500円 (AliExpress) 余ります (有刻印)
  • 生基板 1.6×150×250 2枚: 1000円 (monotaro)
  • 1mm プラバン B00CF9RSTU : 540円 (Amazon)
  • 2mm プラバン B001Q0ZHTW : 550円 (Amazon)
  • ビス・ナットなど 500円ぐらい

キーキャップ2セット買ってるがメタキー用の無刻印のものと通常キーの刻印ありのものを分けたかったからで、1セット+必要なキーだけとかならもっと安くはできるはず。いずれにせよキーキャップの原価支配率が高い。これだけ買ってるのに右シフトキーサイズのキーが Caps Lock しかなくて、しかたなく代用している。

基板切削を自力でやっているので注意がいる。もし基板を外注するなら、左右別のデザインにするとサイズ的に5枚組み1万ぐらいはかかるはず。とはいえ、外注しても2〜3万ぐらいの原価なので、趣味で作るのはまぁまぁ現実的といえる。基板をシェアするともだち(笑)がいるならもうちょっと安くて楽をできる。(趣味で、というのは自分の作業コストをゼロとして見積るという意味です)

製作期間

ヤパチーで ErgoDox を見て触発されて、ErgoDox について調べた(買わないけど) | tech - 氾濫原 このエントリを書いた時点でさいきょうのキーボード自作の実現性について考えていたので、そこから約1ヶ月半ぐらい。ebay や aliexpress が部品調達のメインで、かなり待ち時間があるので、実働は1ヶ月ぐらいかな。休日も平日も夜中にしか開発できないので、やる気があれば半月ぐらいで形になりそう。主観的には(大変すぎて)3ヶ月ぐらいずっとやってるつもりだったけど、案外早くできたっぽい……

ぶっちゃけ1ヶ月ぐらいじっくり取り組むと飽きる。

現時点での感想

キーボード自作は結構面白い。というか奥が深いと感じる。自分が一番よく触るインターフェイスを自分である程度作れるというのは満足度が高い。

いきなりイチから盛り盛りで作ったわりには良くできたと思うが、特にハードウェア部分は製品レベルではない。自分で作って自分で使うぶんには十分といえる。

「さいきょうのきーぼーど」追い求めると沼にハマるので、ほどほどにしたほうがよさそう。

フルキーボード作るのは結構コストがかかるので、既存のキーボードと組合せる前提で、カーソルキーだけとか、ファンクションキーだけ、みたいな無線キーボードなら安く作れて良さそう。そして十分実用にできると思われる。

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