ステンレスワイヤーは柔らかくとりまわししやすいうえに強度が非常に強いので、利便性が高い。ただ、アンテナエレメントとして使うことは非常に少ない。実際のところ、どれぐらい悪いのかを考えた。
ステレンスワイヤーの抵抗値
電気抵抗率 長さ 断面積 の電気抵抗 は
で求められる。オーステナイト系ステンレス鋼の電気抵抗率は 7.2e-7 ぐらいらしいので、φ1mm 20m のステンレスワイヤーでは
7.2e-7 * (20 / (Math.pow(1e-3 / 2, 2) * Math.PI))
で 約18.3Ω
AWG22
AWG22 は薄いシースのもので外形が約φ1.5mmになる。とりあえずこれを比較対象にする。
銅の電気抵抗率は 1.68-8、AWG22 は断面積 0.326mm^2、同じく 20mとすると
1.68e-8 * (20 / (0.326e-6))
で約1Ω
表皮効果
高周波になると表皮効果 (導体の表面付近にしか電流が流れなくなる現象) によってさらに抵抗値があがるため、電気抵抗率だけでの計算は実際はあまり意味がない。
表皮深さ (電流が表面の1/eになる深さ) は、電気抵抗率 、角周波数 、絶対透磁率 から
で求められる。7MHz で銅線を例にすると
var frequency = 7e6; var resistivity = 1.68e-8; var permeability = 1.26e-6; var d = Math.sqrt( (2 * resistivity )/ (2 * Math.PI * frequency * permeability) ); //=> 0.00002462325212298291
となり表皮深さは約25μmになる。中心には殆ど電流が流れず、実質的にはパイプのようになる。
表皮効果を考慮した線路全体の抵抗値は、長さ 直径 のとき、おおよそ以下のようになる
AWG22 は直径0.644mmなので、20mのときは以下のようになる。
var length = 20,diameter = 0.644e-3; R = (length * resistivity) / (Math.PI * (diameter - depth) * depth); //=> 7.01276192459946
約7Ω
同じようにステンレスワイヤーの場合も計算してみる。透磁率によって結構変わってしまうので、最悪の場合も計算してみる (透磁率はWikipediaから)。直径は1mmで計算する
var frequency = 7e6; var resistivity = 7.2e-7; var permeability = 1.26e-6; //〜 8.8e-6 var depth = Math.sqrt( (2 * resistivity )/ (2 * Math.PI * frequency * permeability) ); var length = 20, diameter = 1e-3; R = (length * resistivity) / (Math.PI * (diameter - depth) * depth); //=> 58.89598121117798
約33〜80Ω
アンテナの効率
アンテナの効率とは、全放射電力と入力電力との比
アンテナの効率 η は、 を放射抵抗、 を損失となる抵抗とすると
で求められる。
短縮していないダイポールの場合放射抵抗は約73Ωと考えられる。ワイヤーの導体損だけを考慮すると、ステンレスワイヤーでは約33〜80Ω、AWG22 では約7Ωなので、それぞれ約48%〜69%、約91%となる。
抵抗損失による効率の低下は、放射抵抗が小さいアンテナほど、顕著になる。例えば、放射抵抗が10Ωのアンテナの場合、ステンレスワイヤーでは約23%、AWG22 では約59%となる。
アンテナは短縮するほど放射抵抗が下がるので、短縮すればするほど効率が落ちやすくなる。
ただ、実際のところは導体損だけではなく、接地抵抗やその他の抵抗による損失もあるので、どこまで導体損が支配的かはケースバイケースになりそう。超短縮アンテナなんかの場合短くなるアンテナエレメントそのものよりもコイルでの損失が非常に支配的になるし、λ/4 波長の場合接地抵抗が圧倒的に支配的になると思われる。
所感
事前に思っていたよりも効率の低下が大きく感じた。10W 入力して9W放射されるのと5W放射されるのとでは倍ぐらい (電圧比で 6db=約Sメータ1つ) 違う。とはいえ、ノイズぎりぎりの通信を行わないのであれば、利便性を優先してステンレスを使っても問題ない範囲ではあると思った。