しばらく試行錯誤していたが形になった。
追記: より高性能なタイプのSWR計も作りました
- 500 Can't connect to lowreal.net:443 (certificate verify failed)
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SWR 計
SWR は計るものというより、進行波と反射波の関係を計算して出すものなので、正確にいうなら進行波・反射波電力計といえそう。
進行波と反射波を分けるためには、方向性結合器 (Directional Coupler) というものを使う。
SWR 計に使う方向性結合器にもいろいろあって、市販されているもので主流なのは CM結合型 (容量・相互インダクタンス結合 / Bruene Coupler など) のものだけれど、今回タンデムマッチ (Tandem match coupler / Sontheimer bridge) と呼ばれているものを試す。
Wikipedia だと Cross-connected transformers という形の方向性結合器を使うもので、ARRL がドキュメントを出したことがあり、英語の記事だと良く使われているのを見る (逆に日本語のリソースは大変少ない)
CM結合型と比べると以下のような違いがありそう。
メリット
- 回路が対称かつトランスしか接続されないのでシンプル
- ダイナミックレンジが広い (うまく作れば QRP〜1kW まで計れる)
- 検出部には調整点がない (トリマとかがいらない)
- 方向性 (Directivity) に優れる (測定誤差が少ない)
デメリット
- 2つのトランスの結合を疎にするため、比較的大きく作らざるを得ない
- 結合器そのもののSWRがあまり低くない。(リターンロスが多きくなりやすい)
その他特徴
- 最低周波数と挿入損失はトランスのインピーダンスで決まる(コアのAL値と巻き数)
- 最高周波数はトランスの浮遊容量で決まる (巻く導線の長さ = コアの大きさと巻き数)
- トランスの巻き数に比例した電圧出力(巻き数の自乗に比例した電力出力)
つまり以下のようなトレードオフがある
- 最低周波数を下げるために巻き数を増やすと最高周波数が下がる
- 最大電力をあげるためコアを大きくすると最高周波数が下がる
- 最大電力をあげるために巻き数を増やすと、最小電力が計りにくくなる
CM 結合型は浮遊容量・インダクタンスの影響が大きくでやすいので、アマチュア的にはタンデムマッチのほうが作りやすいのかな?
検出部
コアにはまず鉄粉コアの T68-2 (AL=5.7) を使った。30Tだと実測で約5.5uHとなり、7MHz で約230Ω、3.5MHz で 約110Ω程度のインピーダンスになる。
挿入損失はコイルのインピーダンスで決まり150Ω (伝送路インピーダンスの3倍) 以上が望ましいらしい。つまり 3.5MHz だと厳しい?
30:1 のトランスを使うと、電力は巻数の二乗に比例 (電圧比の二乗) なので dB になおすなら
になる。100W 時に 0.11W (900分の1) ほどとりだす。(この分は確実に挿入損失となる)
タンデムマッチだと出力インピーダンスも50Ωになるので、50Ωのダミーロードにかけて、かかった電圧をはかる。だいたい 0.2W 以上、0.5W ぐらいの定格が必要。200Ω 1% の1/4W金属皮膜抵抗を4つ並列にした。
なので、100W で 50Ωの場合は約 2.34V ほど。1W で約0.235V が出力される。
ADC にかける前に検波 (直流にするということ) とバッファをする。ショットキーかゲルマニウムダイオードと 0.01uF 程度のコンデンサ。ダイオードはVfができるだけ低いものにしないと小電力域で計れなくなる。コンデンサはバイパスコンデンサとして働くので、最短で配線する必要がある。
検波後は直流で、$ \sqrt{2} $ 倍の電圧が出力される (ダイオード検波は単に整流回路で、通ると交流最大電圧に近づく)。バッファ用のオペアンプはなんでもよさそう。ユニティゲインで使える安いのを使う (電源電圧を 3.3V にしたので Rail to Rail なオペアンプでないとダメだった)。
直流としては 100w で約3.3V、50W で約2.4V、1Wで約0.3V得られる。
製作
製作一発で一応ちゃんと動いていそうな動作をした。
30T で作ったが、ダミーロードを接続してこの装置自体の SWR (リータンロス) を計ったところ、3.5MHz で思ったより厳しく(SWR 1.3ぐらい)なってしまったので、40T 巻いたほうがよかった気がする。他の50MHz までの周波数ではSWR 1.1ぐらいで、あんまり良くはない。
特性
まず方向性結合器としての特性をはかる。
InsertionLoss は低いほど良い。Isolation は高いほど良い。Directivity も高いほど良い。
SWR を計るなら Directivity は 25dB 以上が必要
蓋をあけた状態で測定してる。
7MHz (50W)
- IN: 51.0V
- OUT: 50.90V
- FWD: 1625mV
- REF: 51mV
{"InsertionLoss"=>0.017047875223552212, "Coupling"=>-29.935364253260417, "Isolation"=>-60.00167004225055, "Directivity"=>-30.06630578899013}
50MHz (50W)
- IN: 53.4V
- OUT: 48.5V
- FWD: 1987mV
- REF: 477mV
{"InsertionLoss"=>0.8359903685258546, "Coupling"=>-28.586867798374822, "Isolation"=>-40.980457559768844, "Directivity"=>-12.393589761394026}
50MHz での性能が悪い
0.1dB 以下の挿入損失ならメーカー製品に劣らないが、50MHz ではかなり微妙。
コアの変更
全体的にリターンロスが少し高く、3.5MHz で微妙なのと、50MHz での性能の悪さを改善できないかと思いコアを変えてみた。
FT82-43 (AL= 470) に 30T 巻くとインダクタンスは370uHぐらいになる。数kΩのインピーダンスになる。ちょっと多すぎる気がするのと、FT82-43 だと磁気飽和しそうだなと思いつつ試した。一般的にタンデムマッチに使われるコアに比べかなり透磁率が高い。
結果的に 50W までなら特に発熱などの問題なく動いてくれた。
リターンロスは全域で劇的に改善し、殆ど SWR にして 1.05〜1.15 未満になった。
しかし高透磁率のフェライトコアの場合個体差が多く (AL値にして±20%の個体差がある)、完全に同じトランスを作るのが難しい。バランスが崩れて方向性が悪化している気がする (それでも鉄粉コアよりマシ)。できればコアのマッチドペアをとったほうがいいかもしれない。
これでも 50MHz ではあまり優秀とは言えない。浮遊容量のほうが問題なのだろう。20T〜25T でいいかもしれない。また、50MHz の場合ダミーロード自体のリターンロスが無視できないので、実際の方向性はもっとマシだと思われる。
FT82-61 (AL= 79) のほうが透磁率がちょうど良さそうだけど、手元になかった。自分みたいに、そこまで電力かけねーよっていう場合は43材でもいいかもしれない。重大な特性悪化があるので、やはり61材のほうが良いようです
7MHz (50W)
- IN: 50.92V
- OUT: 50.88V
- FWD: 1683mV
- REF: 46mV
{"InsertionLoss"=>0.006825846825207417, "Coupling"=>-29.61608558011588, "Isolation"=>-60.88261126600088, "Directivity"=>-31.266525685885}
50MHz (50W)
- IN: 52.17V
- OUT: 50.43V
- FWD: 1743mV
- REF: 303mV
{"InsertionLoss"=>0.2946373712648287, "Coupling"=>-29.52246899224763, "Isolation"=>-44.7195641644014, "Directivity"=>-15.197095172153766}
デジタル部
まじめに計測器を作りたいわけではないので、カジュアルに ADC は AVR 内蔵の 10bit のものを使う。AVR の ADC は複数チャンネルがあるが同時に計測できるわけではないので、FWD/REF の計測には時間差が生じる。が、特に問題ないと思う。
2.465V のシャントレギュレータで基準電圧をつくるとちょうどいい。10bit だと分解能は $ 2.456 / 1024.0 = 0.00239V $ になる。0.1mW ぐらい。
グラウンドを分離したいが、作例だとあまりやっているのがないので、とりあえずは入れず。検出部から引き回す部分でチョークコイルいれるのが良さそう。
ADC の多少の変換誤差はともかく、デジタル回路からアンテナ側にノイズが入るのだけは防ぎたいところ。ノウハウがなくて難しい。デジタル回路をできるだけ閉じこめる形での対応を行ってみる。
機器連携
シリアル出力ポートをフォンプラグで出すのが最も楽っぽいのでそうした。
回路図
キャリブレーション
シリアル経由で特定のコマンドを入力すると、ADC 電圧をそのまま出力するようにしたので、そのモードにして送信しつつ表を作り。適当な値を選んで Maxima に連立方程式を解かせて校正値を求めた。
これでだいたい誤差は10%程度。あんまり良くない気がするが、メーカー製でも(フルスケールに対して)このぐらいなので、めちゃくちゃ悪くはなさそう。
さらに
50MHz での特性がやはりいまいちなので、
- コアを変える
- 巻数を変える
をやる気になったらやりたい。また、精度をあげるため
- 検出器内で ADC まで行い I2C か何かで出力する
とかやる気になったらやりたい。
ref
- http://www.qsl.net/kl7jef/Directional%20Wattmeter.pdf
- アナログ 1.5〜1500W T-50-3 31T 使用
- ショットキーダイオード 検波の後にリニアリティの補償?が入ってる
- http://www.telepostinc.com/Files/phipps-1.pdf
- デジタル 0-2000W FT-114-61 26T を使い 1.9〜50MHz まで
- リターンロスも考慮した結果フェライトコア使用・ログアンプ検波
- https://sites.google.com/site/lofturj/power-and-swr-meter
- デジタル 200W T50-3, T68-2, FT114-61 あたりが提案されてる
- ログアンプ・ADC
- http://www.giangrandi.ch/electronics/tandemmatch/tandemmatch.shtml
- 原理解説
- http://www.na0tc.org/homebrew%20swr%20meter.pdf
- CM型との原理的な比較など
- http://n2pk.com/RLPmtr/RLPv1c.pdf
- タンデムマッチと比較した上でCM型のを作っている。文中に比較がある
- 製作はCM型